1 カンボジア不動産投資被害時件は、2012年から2013年ころに発生した、(株)FIRST不動産(以下「F社」といいます。)を表向きのカンボジア不動産の販売会社として、在カンボジアの訴外今野郁男(元日本人)が計画し実行した大型の劇場型詐欺事件です。当弁護団は、2013年7月の結成以来、本件について長年取り組んでおり、関連訴訟も多数ありますが、本訴訟は、そのうち、電話営業を行う「二次代理店」と称するかけ子グループに関わった者らを対象とし、原告5名が被告25名に対して合計1億1400万円余りの損害賠償を求めたものです。被告らのうち19名については、既に原審及び控訴審で原告ら勝訴の判決が言い渡され又は和解が成立しており、本判決の時点では、F社の副社長α(以下「訴外α」といいます。)を首謀者である訴外今野郁男に紹介した黒幕的人物(Y1)、本件詐欺行為の途中でF社から(株)S.F.C(以下「S社」といいます。)に移籍した従業員(Y2)、末端のかけ子(Y3)、かけ子グループにアジトを提供した会社及び代表者(Y4~Y6)の6名だけが残っていました。
2 本訴訟においては、Y1の紹介によりF社に入社し、国内での金銭管理とかけ子や飛ばし携帯の手配を担当した訴外αが真実を知るキーマンでしたが、本事件で実刑判決を受け地方の刑務所に服役していたことから、弁護団では訴外αと手紙のやりとりや刑務所での面談をするなどの情報収集を経て陳述書を提出し、原告らは同人の出張尋問を繰り返し求めていました。原裁判所は、この訴外αを含む2名に対する尋問申請についてコロナ禍を理由に却下し(判決文では「昨今の情勢も踏まえて・・・却下した」などと判示されています。)、他の被告らの尋問後も、追加証拠・最終準備書面提出の機会を一切与えないまま一方的に審理を打ち切って判決を言い渡しました。
この第一審判決(東京地判令和3年2月16日)では、①Y1については、訴外αの陳述書について「推測を述べているに過ぎない」とするなどして、Y1は本件詐欺行為を行っているF社の実態を認識していたとはいえない、として責任を全て否定し、②Y2についても、F社からS社に移籍した後の被害に関して両社は実質的に同一とは認められないとして責任を否定しました。また、③Y3についても、原告らに対する本件詐欺行為については、これに関与していないし電話営業グループ全体を指示監督する立場にあったとも認められないとして責任を全て否定し、④Y4~Y6についても、賃貸物件が本件詐欺行為に利用されることを認識していたものとは認められないとして責任を全て否定しました。結論として、これら被告6名との関係では原告らの請求をほとんど全て棄却しました。
3 第一審判決が余りに不当なものであったことから、弁護団では控訴にあたって議論を重ね、230頁弱の控訴理由書と112点・1000頁以上の追加証拠を控訴審に提出しました。加えて、第一審で却下された訴外αを含む2名について改めて尋問を求めました。
そうしたところ、控訴審裁判所は尋問を採用・実施し(訴外αについては東京高等裁判所と刑務所近くの裁判所をつないだビデオリンク方式で尋問を実施)、本判決では、訴外αの供述に全面的な信用性を認めた上で被告6名の責任を全て認めました。
具体的には、①Y1については、訴外αが訴外Kの意向に従って本件詐欺行為の全貌を理解し、F社における資金の流れを管理し、かけ子グループに対する指示・監督をするなど本件詐欺行為の中心的な役割を担っていたことから、「Y1が訴外αを訴外Kに紹介した行為は、客観的にみて、少なくとも本件詐欺行為を幇助したもの」ということができ、主観的にも本件詐欺行為の内容を理解し、それを支援して利益を得ることを企図していたものと認められると判示して、幇助責任(719条2項)を認めました。
また②Y2については、S社への移籍は訴外Kの意向によるもので、移籍後も同様の手法で詐欺行為を継続し、F社の従業員を通じてクレーム対応も行い、本件詐欺行為の遂行、継続を可能にし、全容の発覚を防ぐことに寄与することにより「F社退社後も同社との共謀関係を維持していた」として、移籍後の原告らに対する関係でも共同不法行為責任(719条1項)を認めました。
さらに③Y3についても、かけ子グループの一員として、同グループのアジトにおいて、他グループの構成員と役割分担をし、相互に連携・協働して本件詐欺行為の実現に積極的に関与しその利益を享受していたとして共同不法行為責任(719条1項)を認めました。
加えて、④Y4~Y6についても、擬制自白等を理由として幇助責任(719条2項)を認めました。
4 本事件のような集団的・組織的な詐欺事件においては様々な立場の者が関わっているのであり、どの範囲の者まで不法行為責任を問えるかかが問題となり、周辺者については提訴時には明確な客観的証拠が必ずしも十分ではない事案もあります。本判決は、第一審判決を大幅に変更して、訴外αの供述や間接事実の積み上げにより、黒幕的人物も含めた関係者の責任を全面的に認めたものであり、事例判断として参考になるものと考えます。